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神戸地方裁判所 昭和47年(行ウ)35号 判決

原告 渡辺正一 ほか一名

被告 神戸東労働基準監督署長

訴訟代理人 島津弘一 森修三 前垣恒夫 ほか二名

主文

被告が原告らに対して、昭和四五年一〇月一四日付でなした、労働者災害補償保険法による遺族補償給付及び葬祭料の支給をしない旨の処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  請求原因1(本件災害と亡昭の死亡など)、同2(本件処分に至る経過など)及び同4(裁決の経由)の事実は、原告らが被告に対して遺族補償給付及び葬祭料を請求した日付の点を除き当事者間に争いがなく、〈証拠省略〉によれば右各請求が被告により受付けられたのは昭和四五年一〇月七日であることが認められる。

二  〈証拠省略〉によれば、次の事実が認められる。

1  亡昭は、本件災害の前日午前八時から本件詰所で本件会社の正式従業員である警備員三名と共に警備等の業務に従事するため二四時間勤務についた。

2  右詰所の警備員の業務は、(イ)受付業務、(ロ)交通整理、(ハ)倉庫警備、(ニ)コンテナー置場巡回等に大別されるが、深夜から午前七時までは事実上受付業務はないので、右時間帯に受付業務を担当する亡昭ら学生アルバイト達も、正式従業員がする巡回時計を携行しての巡回とは別に、随時コンテナー置場を巡回すること及び右巡回等を警戒網の外側からすることを本件詰所に勤務する正式従業員によつて黙認されていた。そして、右時間帯においては、本件詰所備付の自動二輪車の鍵が右詰所内の誰にでも容易に目につき持ち出せるところに置いてあつたので、右自動二輪車が随時の巡回のため学生アルバイトにより再三無免許運転されていたけれども、右自動二輪車の管理責任者からは黙認されていた。と言うのも、右巡回区域は障害物も少なく舗装された広大な埠頭で、夜間や早朝には人車の交通もなく比較的安全であり、又、自動二輪車を使えば徒歩、自転車による巡回に比べ時間と労力が節約できたからである。

本件詰所のある神戸港摩耶埠頭のうちコンテナー置場と道路交通法の適用を受ける道路との区分は、警戒網(コンテナー置場の周囲に張り巡らされたロープ)によつてなされていたので、本件会社は所轄警察署から右警戒網とこれを支持する移動式の標柱が転倒したり移動したりして前記区分が不明瞭とならないよう厳重に管理することを指示されていた。

更に、右警戒網に沿つて自動車が再三駐車され荷役作業の支障や交通事故の原因になるので、本件会社は神戸市港湾局から右駐車を禁止するよう指示を受けていた。

したがつて、本件詰所の警備員は、前記埠頭に自動車等が出入りを始める午前七時の前には、前記警戒網を所定位置に立てなおすなどの整備をする必要があつた。

3  亡昭は、本件災害の当日午前六時から八時まで受付業務の当番に当つていたため、午前六時に三時間の仮眠から起こされ、本件詰所内の清掃作業を命じられたが、右作業は短時間ですみ午前八時の交替時間までに完了すれば足るし、警察官に類似した本件会社の警備員の制服制帽を着用した者が時折巡回するだけでも警備の目的がある程度達せられることなどを考慮し、右制服制帽を着用して、前記警戒網の整備や駐車しようとする自動車の制止などの必要があればこれらをする目的を兼ねて前述のとおりの随時の巡回をする目的で、前記自動二輪車を無免許運転して出発したところ、速度を出し過ぎていたため右折する道路を曲り切れないで急ブレーキもかけされないままコンテナー積シヤシーに激突した。

〈証拠省略〉は、前記証拠に比べたやすく採用できない。又、右の証拠によれば、本件災害の直前に他の警備員が巡回警備を行つており実際には亡昭が警戒網の整備や巡回をする具体的必要性は客観的にはなかつたことが認められるけれども、右事実をもつて前記認定を覆えすことはできない。

三  以上の事実によれば、亡昭は、その当時において担当中の受付等の業務とは異るが、雇傭主の本件会社のため同人の職務の範囲内である巡回を善意で行う目的で、本件詰所からコンテナー置場附近に赴く途中、本件災害に遇つたものであるから、業務遂行性が認められ、又、本件災害は雇傭主が前記時間帯に限り黙認していた自動二輪車の無免許運転に内在する危険が現実化したものであつて業務起因性が認められるから、亡昭の死亡は業務上のものと解すべきである。

四  そうすると、本件処分は違法であつてその取消を求める原告らの本件請求は正当として認容すべきである。

よつて、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 下郡山信夫 野田股稔 笹村将文)

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